細波

 

気を許せばさらわれてしまいそうな夜の海を眺め、剣心は独り甲板に立っていた。

義弟の縁との私闘も終わり、あとは船が港に着くのを待つだけ 傷が熱を持ち

その熱を冷ますため こうして甲板に出てきて何刻ほどたっただろう。

 

「剣心?」

 

いくら待てども帰らぬ剣心が不安になったのだろう。無理も無い剣心はかなりの深手を負っている。

 

「薫殿」

やさしく返事をすることで自分は大丈夫だと知らせる。

「もう!寝てなくちゃだめじゃない」

 

「大丈夫でござるよ 少し夜風にあたりにきたでござる」

 

そう言うと、薫は剣心の隣にきて 二人はしばらく寄り添っていた

 

「薫殿の方こそ疲れているのではござらんか?」

 

縁により孤島へ拉致され、いつ殺されるかもしれない恐怖の中の生活

精神的な疲労は、肉体的な疲労よりもかなり大きい

そんな薫を思うと剣心の胸は痛くなった。

 

「剣心ったら!私の心配より自分の心配でしょ」

 

       『ソレハ俺ノ台詞ダヨ』

 

巴のこと縁のこと  それらがどれだけ薫を傷つけ、苦しめただろう。

それでも 『そばに居たい』と言ってくれた薫に対して 曖昧な答えしか出せず

薫を永遠に失った・・そう失ったはずだった。

 

もう、彼女を失いたくない。

自分という人間の傍にいれば、いずれまた闘いに巻き込んでしまうかもしれない。

彼女の幸せを願うのであれば、自分は彼女から離れるべきなのかもしれない。

 

そんな考えが浮かんだとたん、剣心は思わずクスリと笑ってしまった。

      『ソンナコトガ出来ル筈ナイダロウ?』

自分の中のジブンはもう はっきり分かっているようだ 薫なしでは最早 息さえ出来ない。   

 

急に黙って、笑い出した自分を薫は驚いた顔で見つめている

 

「剣心?・・どうしたの・・?」

 

そんな薫が急に愛おしくなって 彼女のぬくもりを 生きている暖かさをこの手で感じたくなり 気がつけば薫の小さな身体は、剣心の腕にすっぽり収まっていた。

 

「薫殿 拙者ようやく言う決心がついたでござるよ」

 

「何が?」

 

薫の耳元に 吐息がかかる程 唇を近づけ、そっと囁いた

 

               ザザッン

 

細波の音に遮られ 果たして届いただろうか・・

 

 

 

 

 

『拙者もずっと一緒にいたいでござる』

 

 

 

 

      あとがき

剣心のプロポーズ?が上手くいったかは皆さんのご想像にお任せします。

斉藤との闘い(すっぽかされたけど)のあの二人の落ち着いた雰囲気や
何の違和感もなく京都に二人でお墓参りに 行ってるあたり
剣心の告白はかなり早かったのではないでしょうか。(という勝手な想像)